傾聴は産業カウンセラーにとって、最も最初に習う事がらの1つであり、カウンセリングのキモでもあります。ただ、産業カウンセラー講座では、主に傾聴的態度を問題として取り上げるのに対し、いったいどうすれば傾聴的態度を示す行動につながるのかについてはあまり触れません。
もちろん、それはクライエント1人1人にとって傾聴を示す行動は異なって来るからという理由はあるのですが、それでも傾聴をする際には、どんなところを意識すればいいのかぐらいは知っておきたいものです。今回ご紹介する『プロカウンセラーの聞く技術』では、そういった傾聴に必要な応答などについて主に言語行動に注目しながらご紹介しています。
ちなみに、産業カウンセラー講座で実技が上手くいかない、よく分からないという人も参考に読んでみると、いろいろと感じ入るところがあるかもしれません。
普通の人とプロの聞き方
カウンセラーが最初に言われ、その後もずっと求められ続けることの1つに、「聞く(hear)と聴く(listen)、訊く(ask)は異なる」という教えがあります。
私たちは、聞くや訊くについては出来ていますが、聴くに関しては訓練を積まなければ、そして場面や時間を設定して集中していなければ出来ないというのが定説です。
実際、本書の中でも、毎日毎日集中してクライエントの話を聞くために、カウンセリングをできる件数は非常に限られてくると言われています。そもそも集中して他人の話を聞くというのは、それほどまで体力を使う行為なのだと認識しておく必要があります。
カウンセリングはどう展開していくか
カウンセリングの練習では聴くという行為が主に注目される上、聴くという行為の重要性を教わり続けるため、ともすると、カウンセリングはクライエントが主導で行うようなものであるようにも感じられます。
ですが、本書の中では聴くという行為によって、むしろ聴いている側の人間が会話の主導権を握っているのだと説明しています。そのため、プロのカウンセラーになるほど、カウンセリングの中で発話が少なくなるのだと。
もちろん、あくまでこれは来談者中心療法のような非指示的療法を専門とするカウンセラーの言葉であり、必ずしも指示的療法を主とするカウンセリング全てにあてはまるわけないかもしれません。
ですが、この「会話を聴くことによって主導権を握っているのだ」という発想や考え方、その手法については全てのカウンセラーが持っておくべき技法の1つだと私は思います。
そして、本書の中では応答や感嘆のパターンにも種類があり、それらが一般的な会話とどのように異なるのかを説明しています。たとえば、「へえ」という感嘆を示すような応答でも、その言い方を変えることで、相手を怒らせる失礼な発言にもなることなどもその1つの例です。
読中、少し主張が分かりにくい場面もありましたが、全体的には具体的なレベルの話が多く、すごく参考になる本だと思います。
カウンセラーや対人援助職に就く人だけでなく、普段人との関わりが多い人や、対人的な問題を抱えている人全てにお勧めしたい本です。ぜひご一読ください。